2020/12/19

とうだい





 

宮本輝さんの「灯台からの響き」を読み、この年の瀬に、

心が遠くの海まで旅をしたように思いました。


はぁ~、出会いというのはなにものにも代えがたいものです。

小説の内容に触れる前に、「宮本輝」という作家に出会わせてくれた

陶芸教室の生徒さんに感謝します。


文章を読んでいて、行間に果てしない景色が、心情が広がるような瞬間が

積み重なっていく読書体験って、なかなかないですよ。

ただ読んでいるだけで涙が出てくるのです。(歳のせい!?)


いやしかし、本当にそうなんだもの。

何度も何度も頁から目を上げて、自分の人生を見つめるって、すごいこと。



そんな読書体験が、みなさまにもありますように。




主人公の牧野康平は、父から受け継いだ中華そばやを

妻の蘭子とともに長年営んで、3人の子供も立派に育て上げていた。

そんなある日、突然蘭子は心筋梗塞で亡くなってしまい、

蘭子との息の合った共同作業でしか「まきの」の中華そばは作れないと、

その後2年近く店を閉めてぼんやりと過ごしていた。

ある日、読みかけの本を読んでいると、昔、蘭子に送られてきた

見知らぬ人からのハガキが本の頁からハラリと落ちて来た。

小坂真砂雄という大学生が、灯台巡りをしたという内容で、

ハガキの下半分には細いペンでどこかの岬らしいジグザグの線が描かれていた。

その時蘭子は、「こんな人は全く知らない。なぜ自分宛に送られて

きたか分からない」と言って、差出人の住所にそのように描いた手紙を

送ったのだ。




その30年ほど前に送られてきた古いハガキを見つけることによって、

このままでは引き籠りになりそうだった62歳の康平が、

人生を再出発するために灯台を巡る旅に出かけます。

近しいと思っていた妻に、自分の知らない、

人生の中での出来事が存在することを知っていく過程で、

身近な人や、初めて出会う人々のそれぞれの人生を深く感じていくのです。



それぞれが、人にはあえて言わないけれどこの人生で経験した

たくさんの深い出来事があることでしょう。

そのことが、ある時だれかが深い闇の中で迷っている時に、

航路を照らす灯台の灯りのように道を照らすことがあるのではないかと。

小説の中で、灯台を人のように描写するところがあります。



遠くの海を照らす灯台の灯りを思い浮かべてみてください。


最後に、妻の蘭子が亡くなるまで言わなかった秘密が解かれる場所が

島根県出雲にある日御碕(ひのみさき)灯台です。


日本一高い灯台らしい。行ってみたくなりますよね。
















こちらは京都駅前の京都タワー。


京都の街を照らす灯台のイメージで作られたそうです。

海ではないけれど。


「人生には、口をつぐんで耐え続ける日々があり、

 ささやかな幸福の積み重ねがあり、

 慈愛があり、闘魂がある。」



暗闇を照らす灯台の灯り




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